花丸 この日の彼女は笑顔だった

11月28日(木) ほぼ毎日・校長 Vol.141 よかったね いい思い出にできて

 一人の女子生徒が、担任の先生と一緒に校長室にやってきた。入ってくるなり笑顔である。「ありがとうございました。おかげさまで・・・よかった。・・・嬉しかった。」
 彼女と話をしたのは夜の帳の降りた琵琶湖畔。修学旅行のディナークルーズ船に乗り込む列の中。話しかけてくれた。「今度、校長室に伺っていいですか?」「ええよぉ」関西の空気を吸った途端、DNAに組み込まれた関西の血が蘇る。自然に関西のおじさんになっている。船の逆光でシルエットでしか見えなかった彼女の横顔だが、妙に印象に残っていた。
 翌日の宿のロビーのソファで、大粒の涙を流している女子生徒。見るなり昨夜の女子生徒だとわかった。「君かぁ。どうしたの?」絞るように泣きじゃくりながら事情を話してくれた。涙の質を本人もわからなかっただろう。「ごめんなさい」我にもあらず受難者となった彼女は、その心を「申し訳ない」という気持ちでいっぱいにして、何層もの感情が折り重なった重みに潰れそうになって、それがフローして涙になって、瞳からボロボロこぼれ落ちている。
 エンパシーとシンパシーの話。こんな時にそんな難しい話はいらない。「ごめんね」と相手の気持ちを察しているだけでなく、「ごめんね」が向けられる相手の心に感情移入をしてみよう。今君が受難者となったことを友人たちはどう思っているだろう。誰も悪くない、悪くないけど彼女の身の上に難が降りかかった。そんな状況の中で、受難者本人が「申し訳ない」と思って塞ぎ込んでいる。余計に辛いのでは?「さっきはごめんね。心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫。楽しう」と言ってくれた方がずっといい。顔をあげて、笑顔になってエンパしーを実行してみよう。そんな意味のことを語った。
 強い子だった。まだ涙の止まらない瞳をこちらに向けて、こくりと小さくうなずいた。よかった。彼女のバッグにBob'sBearTim(ティム)がぶら下がっていた。一つ年上の姉が土産に買ってきてくれたのだと教えてくれた。
 「校長、いい子だねぇ」Tim(ティム)が、小さなピンクの舌をぺろりと出して、語りかけているように思えた。いい生徒が集っています。市原中央高等学校。自慢です。

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