花丸 ある親子との会話(悪いことばかりじゃないPart4)

5月7日(木) ほぼ毎日・校長 Vol.168 あの子はどうしているかしら?
  自宅にいて「何ができるだろう?」と考えてみた。10年ほど前に関わったICT活用の授業を考え、本校に着任してから校長室を訪ねてきた生徒との会話を考え、「Zoomで校長と・・・」というイベントを考えた。よく考えもせず一人の生徒のところにメールを送ってみた。よく考えもせずだから説明も難しかったろうが、その生徒は一生懸命動いてくれたようだ。すまなさそうなメールが届く。「先生、ごめんなさい」目論見は達成できなかったのだが、彼の懸命な動きと相手を思いやる気持ちに触れ、嬉しかった。もちろん保護者の方にもお断りしていたので、お母さまからもメールをいただいた。「春のたくさんの大事な行事が中止になり、先生方も大変な中、ありがとうございます」「不安な気持ちで過ごしているなか前向きになれるような」「いいえ大丈夫です。負担に感じるようなことはありません」心が温まる。
 さーてどうしたものかと、夕暮れ時を散歩した。ただでさえセンチメンタリズムを刺激しそうな「夕暮れ」。
 さびしさはその色としもなかりけり槙立つ山の秋の夕暮れ 寂蓮
 秋ではないが、春愁。春もまた憂の季節である。橋を渡ろうとすると、真っ赤になった西の空に霊峰が燻(いぶし)銀のような姿を見せ、川面に映じている。「いいなぁ」心からそう思った。「寂しさに色はあるのかもしれない」と取り止めもないことを考えながら、自分の心の中で何かが変化していることに気づいた。きっと先ほどのメールで交わした姿見ぬ会話のが、素直に「いいなぁ」を感じさせたのだろう。
 夕陽を見ていて2人の生徒のことを思い出した。
 一人はバスターミナルに歩いていく女子生徒。初めてあった市原中央高等学校の生徒。後ろ姿で「なんていい学校なんだろう」を感じさせた生徒である。時間があれば家の近所の塾の自習室に行って、学校がある時と変わらない時程を過ごしていると聞いた。どうしているだろう。
 一人は、夕陽の赤が思い出させてくれた。ボルネオ島タワウからスピードボートで行く小さな島の夕陽。「先生、ここの夕陽すごいです」を教えてくれ、私に行動させてくれた教え子。もう30年以上も前になる。「親父とうまく行っていないんだ」とこぼしていた彼の、高校生活最後の試合に観戦にきてくれていたお父さん。短い手紙を下さった。気持ちが十分に伝わってくる、短い手紙。ふとそんなことを思い出させた夕陽。いろんなことが複合的に重なって、結局「いい日、いい瞬間(とき)」だった。

 「悪いことばかりじゃない」そんなふうに捉えることができない「今」だから、自分の瞬間(とき)を見つめ直してみよう。結構いい人生歩んでいるよ。